裁定書 JP2012-0013 事件番号:JP2012-0013 裁 定 申立人: (名称)株式会社 日建設計 (住所)東京都千代田区飯田橋2丁目18番3号 代表者:代表取締役社長 岡本慶一 代理人:弁護士 井口 寛二 弁護士 野村 幸代 登録者: (氏名)田村 祥子 (住所)島根県益田市高津二丁目23-22 代理人:なし 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、JPドメイン 名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛争処理 方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された証拠に基づいて審理 を遂げた結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「nikkensekkei.jp」の登録を取り消せ 2 ドメイン名 紛争に係るドメイン名は「nikkensekkei.jp」である。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 a 申立人 (1) 申立人は、申立人の商号及び英文社名表記と同一または混同を引き起こすほど類 似している本件ドメイン名について、登録者は正当な利益を有しておらず、そしてドメイ ン名は不正の目的で登録または使用されていると主張する。 (2) 申立人の登録商標は、nikken.jpという文字列を角丸正方形の中に配置したロゴ二 種類である(甲5号証、甲6号証) また申立人の商号は「株式会社日建設計」であり、英文表記は「NIKKEN SEKKEI LTD」で ある(甲1号証、甲4号証)。 これに対して本件ドメイン名「nikkensekkei.jp」の要部nikkensekkeiは商号の要部日 建設計の読みをローマ字表記したものであり、日建設計と呼称が完全に一致している。同 様に本件ドメイン名は、申立人の英文社名表記の要部NIKKEN SEKKEIから空白を除去し小 文字で表記したものであって、外観上極めて類似している。 従って本件ドメイン名は申立人の商号及び英文社名表記と混同を引き起こすほど極めて 類似していることは明らかである。 (3)①登録者は、申立人のウェブサイトをコピーして連絡先のみ書き換えたサイトを本件 ドメイン名を用いて開設しており、正当な目的での使用には当たらない。②本件ドメイン 名の要部を検索エンジンで検索すれば、上位はほぼ申立人関係の結果が示され(甲11号証)、 登録者の氏名「田村祥子」が表示されることはない。③登録者は申立人のウェブサイトを 利用して閲覧者を誤認させ、何らかの利益を得ようとした。 以上の事実から、登録者が本件ドメイン名に関する権利または正当な利益を有していな いことは明らかである。 (4) 登録者は本件ドメイン名の下で、申立人の作成した3ヶ国語のウェブサイトをコピ ーしたサイトを開設しており(甲12号証の1ないし3および甲13号証の1ないし3)、こ れは申立人の商標権、著作権の侵害に当たる。加えて登録者の本件ドメイン名の下におけ るウェブサイトでは、申立人のウェブサイトに記載された連絡先メールアドレス、電話番 号、ファックス番号が改変され、閲覧者を誤認させて登録者に接触させようとしている。 中国国内の設計コンペに、申立人に成りすました何者かが提案資料を提出して参加した ことが3件あり、いずれも申立人の事務所にコンペ主催者が直接連絡をして発覚した。そ のうちの少なくとも2件の提案資料には、本件ドメイン名が使用され、本件ドメイン名を 用いて開設されているウェブサイトの連絡先が記載されていた。中国国内の設計コンペは 要求事項を満たした提案に対して参加報酬が支払われるので、不正に参加報酬を取得する ための手段として本件ドメイン名が登録されているものと考えられる。 (5) 以上の理由に基づき、申立人は、本件ドメイン名の登録取消しを請求する。 b 登録者 登録者に対しては、規則第4条に基づき、2012年12月3日に申立書を送付し、 同規則第5条(a)項により2013年1月7日が答弁書提出期限となったが、同期限内に答 弁書は提出されなかった。 5 争点および事実認定 a 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原 則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・文書および審問の 結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条 理に従って、裁定を下さなければならない。」 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図してい る。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること b 登録者は答弁書を提出しないが、方針および規則に基づき申立人が証明すべき3点 について、申立人の主張および提出された証拠に基づいて、以下のように認定する。 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示 と同一または混同を引き起こすほど類似していること 申立人の商号は「株式会社日建設計」であり、その英文表記は「NIKKEN SEKKEI LTD」で ある(甲1号証、甲4号証)。それぞれ、いわゆる要部は日建設計、NIKKEN SEKKEIと認め られる。 これに対して本件ドメイン名「nikkensekkei.jp」の要部nikkensekkeiは、商号の要部 日建設計の読みをローマ字表記したものであり、日建設計と呼称が完全に一致している。 また、本件ドメイン名は申立人の英文社名表記の要部NIKKEN SEKKEIから空白を除去し小 文字で表記したものであって、外観上極めて類似している。 従って、本件ドメイン名は申立人の商号及び英文社名表記と混同を引き起こすほど極め て類似していると認められる。 (2)登録者が、ドメイン名の登録についての権利又は正当な利益を有していないこと 登録者が答弁書を提出しないため、登録者がいかなる権利または正当な利益を有するか 不明だが、まず登録者の氏名および考えられる略称と本件ドメイン名とが結びつくことは ない。また本件ドメイン名の要部により検索した結果、登録者に関係するウェブサイトが 表示されることもなく(甲11号証)、少なくとも登録者が本件ドメイン名と関係する何ら かの事業を行なっている様子はうかがわれない。このことは方針第4条c項(i)ないし (iii)に定める事情の不存在を推認させる。 かえって、次の(3)で認定する事実に照らし、本件ドメイン名の下で開設されている ウェブサイトの存在からは、登録者が申立人の商標その他表示を理由して消費者の誤認を 惹き起こすことにより商業上の利得を得る意図で本件ドメイン名を登録しているものと推 認でき、このことは方針第4条c項(iii)の事情の不存在を認定できるものである。 従って、登録者が本件ドメイン名の登録について、権利または正当な利益を有していな いと認められる。 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること 登録者は本件ドメイン名の下で、申立人の作成した3ヶ国語のウェブサイトをコピーし たサイトを開設していることが認められる(甲12号証の1ないし3および甲13号証の1 ないし3)。このサイトには申立人の登録商標であるロゴ(甲5号証および甲6号証)が表 示され、また申立人が著作権を有すると推認できる内容の複製および公衆送信可能化が行 われており、申立人の商標権および著作権の侵害を構成する。 加えて登録者の本件ドメイン名の下におけるウェブサイトでは、申立人のウェブサイト に記載された連絡先メールアドレス、電話番号、ファックス番号が改変されている(甲12 号証の1ないし3および甲13号証の1ないし3の比較、ならびに甲14号証)。これは、閲 覧者をして、本件ドメイン名の下におけるウェブサイトを申立人のウェブサイトと誤認さ せた上で、申立人に連絡するつもりの閲覧者を改変された連絡先に連絡させようとする意 図で行ったものと認められる。 さらに、申立人が主張するところによれば、中国国内の設計コンペに、申立人に成りす ました何者かが提案資料を提出して参加したことが3件あり、いずれも申立人の事務所に コンペ主催者が直接連絡をして発覚したこと、そのうちの少なくとも2件の提案資料には、 本件ドメイン名が使用され、本件ドメイン名を用いて開設されているウェブサイトの連絡 先が記載されていたこと(甲16号証および甲17号証)、中国国内の設計コンペは要求事項 を満たした提案に対して参加報酬が支払われることが認められ、これらに反する証拠はな い。以上の事実に照らせば、本件ドメイン名の登録は、設計コンペの参加報酬を不正に取 得する目的でなされているものと考えることができる。 従って、登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていることも認めら れる。 6 結論 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名 「nikkensekkei.jp」が申立人の商号および英文社名表記と混同を引き起こすほど類似し、 登録者が、ドメイン名について権利または正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン 名が不正の目的で登録または使用されているものと認める。 よって、方針第4条i項に従って、ドメイン名「nikkensekkei.jp」の登録を取り消すも のとし、主文のとおり裁定する。 2013年2月4日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 町村泰貴 単独パネリスト 別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2012年11月28日(電子メール)及び11月28日(書面) (2)手数料受領日 2012年11月28日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2012年11月28日 JPRSへ照会 2012年11月28日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、JPRS に登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2012年11 月29日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合していることを確認 した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2012年12月3日(電子メール及び郵送) (但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送さ れた。) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2013年1月7日 (6)手続開始日 2012年12月3日 センターは、2012年12月3日に申立人及び登録者には電子メール及び郵 送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2013年1月 8日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不出通知書を、電子 メールと郵送にて申立人及び登録者に送付した。(但し登録者宛郵送分について は「あて所に尋ねあたりません」として返送された。) (8)パネリストの選任 2013年1月15日 申立人は1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 中立宣言書の受領日:2013年1月20日 パネリスト:町村 泰貴 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2013年1月15日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知 (但し登録者宛郵送分については「あて所に尋ねあたりません」として返送され た。) 裁定予定日:2013年2月4日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2013年1月15日(電子メール及び郵送) (11)パネルによる審理・裁定 2013年2月4日 審理終了、裁定。